肛門周囲膿瘍で切開排膿を行い、その後、繰り返さずに治癒が見込めるようであれば、それ以上の治療(手術治療)は必要ありません。しかし、肛門周囲膿瘍を繰り返す場合や膿の排出後、はっきりとした瘻管を形成している痔瘻の場合は、根治手術が必要となります。そのまま放置していると、痔瘻が枝分かれして複雑化したり、肛門変形の原因になったり、まれにがん化(痔瘻がん)することもありますので、注意が必要です。
肛門周囲膿瘍に対する切開排膿術
肛門周囲腫瘍の時期は膿がたまるにつれて痛みがひどくなり、発熱も伴いますが、膿が出てしまえば症状は改善します。そのため肛門周囲膿瘍の治療では、まず皮膚を切開して膿を出す「切開排膿術」が行われます。肛門周囲の皮膚、あるいは直腸肛門内の粘膜に切開を加え、たまった膿を外に排出し、十分に膿の出口を作った後に、抗生物質や鎮痛剤を投与します。
痔瘻の根治手術
膿の排出後、瘻管が残り痔瘻になった場合は、根治手術を行います。瘻管は、肛門の機能を支える括約筋の間を走行したり、括約筋を貫通したりしていることが多く、手術方法は、肛門の機能に問題が起こらないよう括約筋に十分注意して、痔瘻の方向や走行、深さなどに合わせて慎重に選択します。代表的な手術方法には、「瘻管切開開放術」や「括約筋温存手術」がありますが、「シートン法」による治療や処置も、その安全性と簡便性から広く行われています。
痔瘻(とくに複雑痔瘻)の手術は専門性が高く、高度な技術と経験が必要になりますので、直腸肛門部の外科治療に熟練した医師を受診することが大切です。
瘻管切開開放術(ろうかんせっかいかいほうじゅつ
瘻管に沿って入り口(1次口)から出口(2次口)までを切開し、そのまま縫合せずに瘻管を開放する手術です。lay open法とも呼ばれています。根治性が高く、痔瘻の手術で最も再発が少ない術式とされています。括約筋をある程度切り離すため、括約筋を切除しても肛門機能に影響がない肛門の後側にできた単純痔瘻が主な適応となります。
肛門括約筋温存手術(こうもんかつやくきんおんぞんしゅじゅつ)(くり抜き法)
肛門の前側方の痔瘻に対しては、括約筋を切断しない肛門括約筋温存手術を行います。括約筋の損傷を最小限にするために瘻管だけをくり抜く方法で、くり抜いた傷口(1次口)は、手術後に溶ける特殊な糸で縫合します。括約筋の損傷がないため手術後の便失禁といった肛門機能障害は起こらなくなります。術後の肛門機能だけを考えればよい方法ですが、再発率がやや高いことが欠点です。
シートン法
手術時に瘻管を切るのではなく、瘻管に医療用のゴム糸を通して軽く縛り、術後、ゴム糸を締め直していくことで瘻管と肛門括約筋をゆっくり切開する方法です。肛門の後側以外にできた痔瘻や、瘻管が深かったり、複雑だったりする場合に用いられます。
シートン法は生体の異物除去反応を利用した治療法で、切開を進めていく間に、最初に切られた括約筋の切口から治癒していきます。切開と治癒が同時に進行するため、括約筋にかかる負担を最小限に抑えることができ、肛門機能の温存効果が高まります。再発も少ない治療法です。ゴム糸は1~2週間の間隔で締め直し、その際は、多少の痛みと違和感があります。治療期間は瘻管の深さや長さによって異なりますが、平均して数ヶ月を要します。